ニッポンのサムライ
マネジメントフロンティア
中地宏の会計講座
指定管理者の選定に関する基本的な考え方について

募集要項を作成する段階では、審査基準を事前に定めることが必要

前回(第7回)は、指定管理者の選定に関する基本的な考え方として、選定に当たっての基本方針、すなわち、(1)透明性の確保、(2)民間の創意工夫の尊重、(3)公平な競争の確保、の3点について説明させていただいた。船橋市立リハビリテーション病院の事例では、指定管理者選定委員会(以下「委員会」という)において、これらを盛り込んだ基本方針を「選定に当たっての重要な措置事項」(資料1)として具体的な措置事項とともに整理し、それを踏まえて選定スケジュール等を決定している。

(資料1)
選定に当たっての重要な措置事項

ここに書かれていることは、読者の皆さんにとっては当然過ぎることかもしれない。そのため、こうした基本方針を事前に定めている事例は少ないと思われる。しかしながら、実際に委員会を運営した経験上、(1)さまざまな学識者から構成される委員会のメンバーが、必ずしも、こうした前提条件を理解しているとは限らないこと、(2)選定スケジュールや審査基準等の様々な事柄を、短期間に決定しなければならないことから、こうした基本的な方針を定めることが大変有効に機能したことを実感している。さらには、こうした基本方針を定めること自体が、選定プロセスの透明性を高めることに寄与するものだろうと思われる。
さて、今回は、この基本方針を踏まえて、具体的な選定プロセス、特に審査基準を中心にご説明したい。前回述べたとおり、選定プロセスには、(1)募集段階、そして、(2)選定段階の2段階がある。すなわち、まず募集を行い、次に、応募のあった法人等の中から指定管理者の候補者を選定するのである。
したがって、説明としては、募集段階、選定段階と順を追ってご説明するのが自然ではあるが、本稿では、これとは逆に、選定段階から、まずご説明をしたい。募集に当たっては、RFP(Request For Proposal、提案要求仕様書)を策定する必要があるが、RFPでは、当然のことながら「提案要求事項」を記載する必要がある。後に詳しく述べるが、この提案要求事項は、審査基準から逆算して定められるべきものであると考えている。すなわち、「どのような項目について、どのように審査するのか」ということが決定されているからこそ、提案要求事項を決めることができるのである。これが、本稿において選定段階からご説明する大きな理由である。
では、まず選定段階におけるポイントについてご説明する。

選定段階におけるポイント

2段階方式による審査

審査は第1次審査と第2次審査の2段階に分けて行った

(資料2)
2段階方式による審査

第1次審査では応募者の中から上位の3者を選定し、第2次審査で最適候補者および次席者を決定するという流れである。募集の段階では、応募者数がどの程度になるか予想できない。そのため、第1次審査では、応募者を絞り込むことを主目的として、事業計画書そのものではなく、「事業計画書概要」による審査を行っている点がポイントである。事業計画書そのものは、提案内容のみで20枚以上となるため、もし多数の応募があった場合は、委員会における審査能力を超えてしまうだろう。このため、まず事業計画書概要により審査を行うのである。
このほか第1次審査で特徴的なことは、「絶対評価」により審査している点である。これも多数の応募を想定した措置であるが、仮に10者から応募があった場合、各提案項目について1から10まで順位をつけることはナンセンスである。このため、絶対評価により審査し、その総合得点により第1次審査の得点としているのである。一方で、第2次審査では、事業計画書およびプレゼンテーションのいずれも、審査項目ごとに「相対評価」により審査している。各応募者の提案内容が、優劣付けがたい場合、3者から1者を選定することは極めて難しい作業となる。また、1者選定できたとしても、なぜ、その1者が選定されたのか、との説明責任を果たす必要がある。そうした観点からすれば、審査項目ごとの相対評価とすることによって、1者のみに絞り込むことの合理性についてご理解いただけることと思う。
また、細かいことではあるが、公平性を確保するため、法人等を特定できるような情報を事前にマスキングをする、さらには、事業計画書等の持ち出しを認めず、事務局立会いのもとで審査を行う等の措置を講じている。

配点

資料3は、第1次審査と第2次審査の配点である。

(資料3)
第1次審査と第2次審査の配点

いずれも1,000点満点で審査を行っているが、第2次審査では、第1次審査の評価結果の10%に、提案書審査の70%、プレゼンテーション審査の20%を加え1,000点満点としている。プレゼンテーション審査については、その取扱いについてさまざまな考え方があろうかと思う。例えば、プレゼンテーションを、事業計画書に関する疑義を質す場と考え、プレゼンテーションの後に改めて事業計画書の審査を行うなどである。しかしながら、この方法は、公平性という観点から問題になる可能性があることを付言しておく。すなわち、プレゼンテーションは、委員と応募した当事者による面談方式で行われるため、委員が法人等を特定できる可能性があり得る。このため、海外では、プレゼンテーション後に提案書の審査結果を変更する場合には、その理由を審査票に記載させるなどの措置を講じている事例がある。こうしたことから、船橋市立リハビリテーション病院の事例では、プレゼンテーションの審査結果は、提案書審査とは独立させた形で、第2次審査の得点に加えている。

着眼点

次に、これらの審査に当たっての、具体的な評価方法について見ていきたい。資料4は、「医療の標準化」という提案事項について、どのような点から評価するかという着眼点を整理したものである。

(資料4)
「医療の標準化」という提案事項

図中では左から4番目に「提案事項」という項目があり、ここに記載されている項目は、そのままRFPの提案要求事項となっている。この提案事項に関する着眼点は、第3回(事業戦略の策定について)でご説明した基本的な戦略に沿って設定している。提案審査に当たっては、本事業のミッションおよびビジョンを達成可能かとの観点から評価がなされるべきであり、このことから、事前に基本的な戦略を定める必要性についてご理解いただけるものと思われる。なお、着眼点についてすべてをご紹介することはできないので、詳細については、船橋市立リハビリテーション病院のホームページを参照していただきたい。 以上が、選定段階におけるポイントである。次に、順番は前後するが、募集段階におけるポイントについてご説明する。

募集段階におけるポイント

RFP

資料5は、船橋市立リハビリテーション病院指定管理者募集要項の項目を抜粋したものである。

(資料5)
船橋市立リハビリテーション病院指定管理者の項目の抜粋

項目第10に提案要求事項が記載されているが、この提案要求事項は、前述した通り審査基準を定める際に、既に設定されていたものである。RFPを作成するに当たって、配慮した点は、応募者に対して、いかに本事業の趣旨等について理解してもらえるような情報を提供するかという点である。すなわち、応募者には、単に漠然と質の高い医療を求めるということではなく、具体的な医療水準はもとより、本病院のミッションやビジョン、さらには、指定管理者制度の趣旨、ビジョンを実現する上での官民のパートナーシップの重要性等について、できる限り分かりやすい説明を心がけた。

応募資格

応募資格としては、医療法上の開設主体であるほか、運営実績として、一定数以上のリハビリテーション病床を運営していることを求めた。医療法では、医療法人のほか、個人を含めて広く病院の開設主体となることができるが、営利を目的とした民間企業は、原則として開設主体となることができない。既存の病院の中には民間企業が経営しているものもあるが、それらは、現在の医療法が制定される以前に設立されたものか、あるいは社員の福利厚生を目的としたものである。厳密にいえば、指定管理者は、病院の開設者ではなく管理者となるため、医療法の直接適用はないが、厚生労働省からもその点について、医療法の趣旨を踏まえ、営利企業を指定管理者に指定しないよう通知がなされている。なお、運営実績については、あくまでも資格審査の対象にとどめ、事業計画書等における評価対象とはしていない。

おわりに

これまで説明してきた内容は、あくまでも船橋市立リハビリテーション病院における事例をベースとしたものであって、言うまでもなく、ひとつの参考事例にすぎないと認識している。これまでは、制度導入直後ということもあり、手続的、あるいは形式的な側面ばかりに着目されてきた感が強かった指定管理者制度も、次なるステージとして、具体的な成果が求められるであろうし、競争環境の整備や民間事業者のノウハウの蓄積に伴って、制度そのものがより成熟していくことが期待される。その際に、本事例が多少なりとも参考になれば幸いである。
筆者は、官民のパートナーシップという観点から、指定管理者制度にとらわれず、PFI、さらには市場化テストなど、さまざまな組み合わせ、あるいは類似事例による住民価値向上のための取組みに大変関心を持っている。今後とも、本事例に限らず、官民のパートナーシップに向けた議論を、多くの方々と議論できる機会を期待している。本連載をお読みいただいたすべての方に感謝し、筆をおくこととする。

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松浦 年洋氏

松浦 年洋(まつうら としひろ)

船橋市企画部企画調整課(前・リハビリテーション病院整備室)副主査

1969年生まれ。立教大学社会学部卒業。1993年船橋市役所入所。総務部職員課にて公益法人派遣制度の導入等に従事した後に厚生労働省(医政局指導課)出向。厚生労働省では、主に医療法人制度の見直しを始めとする医業経営改革に従事し、病院PFI、医療機関債の創設、病院会計準則の見直し等を経験。船橋市役所復帰後は、人事評価制度の見直し、お客様の声データベースの構築等を経て、船橋市が2008年開院を目指し整備を進めている「船橋市立リハビリテーション病院」の運営企画業務を担当。2007年4月より現職。

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